旅と日々

冒頭、夏の海、どこか居心地の悪そうな若い男と島にやってきた女が海に入る映画がはじまる。そしてこの映画が映された大学の講義室に画面が移り、韓国から東京にきた脚本家の李の姿へ。さらに後日、李の旅先である雪の積もった山形にある古びた宿での数日と、それからが描かれる映画です。

印象的なシーンが沢山ありました。夏の夜道、真っ暗な画面で女が急にしゃがみ込んだ直後、なかなか点かないライターから何度も火花が出る場面。

あるいは「旅とは 言葉から距離をとることかもしれない」というモノローグの入る李の住まいの場面で、暗い窓のすぐ外を通る電車に向かってカメラを構えたあと、遠ざかる電車の音を聴きながら窓の奥をみつめている場面。

山形に着いてお昼ごはんを食べに入った食堂の台所で、おばあさんとおじいさんがテキパキと支度をしている場面。視線の移動と手先の移動にムダがなく、さらに二人の間に会話もないままに、息のあったような動きがあった。

上げきれないくらい、後半の舞台になる山形のお宿に着くまでだけで何度もこの画面良すぎる……となる瞬間がいくつもあったんですが、一方でここまであまり言葉(発話)が頭に残っていなかった反面、お宿についてからはぐっとかわって、無骨な宿の主人と二人で過ごす交わされる会話がとても心地よい。「おめさんはべらべらよくしゃべるの」と言われるくらい。そして床に寝転がりながら天井を見上げる李から「さよでございますか」の声が聞こえてきたとき、本当によい映画だな……って深い息が出そうだった。会話が際立つ裏には舞台の古いお宿とそこに入る雪あかりの光の加減、しんと冷えた空気、静かな空間に流れるサウンドトラックのバランスの良さがあり、どれもがはまっています。

ユーモアがあり、少しの哀しみを描いていること。そして純粋な映画を目指すこと。劇中において、映画や脚本についてこのように言われるとき、それを聞いたわたしは「たしかにそうかも……」と思いながらみていたわけですが、この映画全体にそれらがじんわりと染み渡っていました。どこかリラックスできる作品だった。とてもよかったです。

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