バード ここから羽ばたく

『バード ここから羽ばたく』をみました。とてもよかった……。バリー・コーガン演じる父バグ、そして兄ハンターと暮らすゲイリーのもとに、次の土曜日に結婚式をするといって父が連れてきた婚約者とその娘。居場所なくさまよってたどり着いた草むらで出会ったバードと過ごす、週末までの数日を描いた映画です。

映画冒頭、電動スクーターに二人乗りをしたバグとゲイリーが街から郊外へ走り抜けるときに流れるのがFontaines D.C.の「Too Real」で、その抑え気味のイントロが一気に爆発する瞬間、画面のなかの親子二人が口を大きく開いて絶叫するシーンが好きすぎる。そのまま曲は流れ続けて、街中を走り抜ける父がこの曲を歌っているのが聞こえる。これから先、結婚式に気を取られた若い父であるバグが何度ゲイリーを顧みない行動をとっても、この冒頭のシーンがあるからこそどこかでこの二人の気持ちのつながりを感じながら全編をみつづけることになるんだよな。

結婚式の費用は捕まえてきたヒキガエルが分泌する神経毒からクスリをつくって稼ぐという父。虐待されている子どもを守る大義で暴力を振るう自警団を結成した兄。別居中の母のもとには新しい恋人スケートがDVで君臨している。暴力に溢れた映画ではあるんですが、だからこそ冒頭のような一瞬を最初にみせてくれるのって本当にすごく良くて、こういった瞬間がちゃんとこれから作中に何度も描かれています。

それはバグが大きな声で歌う(そしてゲイリーの居場所には筒抜けで聞こえてくる)ような形で本編に何度も流れる様々な楽曲の歌詞と、その場面の連携のうまさ、そして繰り返し発生するフラッシュバックがそうさせるところもあるんですが、絶妙なのはそれらを使ってもなお感傷的にしすぎないそのバランス感なんだよな。このあたりは演出もそうですがバグを演じるバリー・コーガンが本当によかった。

例えば、仲間たちと酔っ払って肩を組みながらコールドプレイを合唱するシーン(UKロックを好きな現地の人って本当に酔っ払って肩組んで合唱するんだ……)も家の外で辛いやりとりをしてきたゲイリーとハンターにとっては帰ってきて少し気を許すような瞬間なんですが、これだってヒキガエルを抱えながら歌でストレスを与えて分泌液を出そうぜ!ってやっている場面なんだよな。

こういう瞬間を描くことが、過酷な世界を描いた作品全体にうっすら光を添えること、作中にも何度かでてくる「Don’t You Worry」という言葉にしっかりつながる。部屋から窓の外を見上げると、高いビルの屋上に立つバードの姿がいつも見えたように。

たくさん登場する動物たち(カモメ、カラス、馬、狐といった面々)の使い方が良かったとか、フランツ・ロゴフスキ演じるバードの存在感、手持ちカメラで動き続ける映像、ハンターから「オヤジ臭い曲」といわれるバグの歌(コールドプレイ、ブラー、…)、BGMの良さ(窓枠で羽ばたく蛾の羽音のイメージとレコードのチリ音を重ねてくるのすごかった)、エンドロール等々とこの映画の良いところは本当にたくさんあって、ただそれが頭の中で一つにならずに散らばったまますっと差し出されるような不思議な映画だった。よかったです。

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