最近は毎晩『Disco Elysium』をプレイしていて寝不足気味の日々が続いています。以前、Switch版を触っていたときはバグで進行不可状態になってしまい諦めたんですが、しばらく前にSteamで購入しなおしました。めちゃくちゃおもしろいです。九井諒子氏もおすすめしている。
酒をのみすぎて記憶を失い、名前さえわからない状態の刑事が町で起こった殺人事件に取り組むゲーム。巨大企業、資本家、労働組合、様々な登場人物たちのしがらみのなかで、膨大なテキストを読み、選択肢を選んで主人公は舞台であるマルティネーズの街を右往左往していく。大金持ち過ぎて周辺の光が捻じ曲がってしまう男も登場するよ(実際に光が捻じ曲がっている!)。
その選択肢は「知性」「精神」「肉体」「運動能力」の4つに大別され、その下にそれぞれ6つ設定される「論理」「百科事典」「概念化」「意志力」「権威」「耐久力」「悪寒」「反応速度」「手さばき」等々といった自身の内面に関するスキルの数値で判定されています。これらによって選択肢のパターンや、その選択の成否(ダイスを振り、スキルの数値と組み合わせて基準を超えたかどうか、出目に寄って進行が変わる)が決められていく。
さらに主人公には思考がある。「実質的芸術学位」「ハードコアの美学」「ある種のスーパースター」「黙示録刑事」「過剰生産気味名誉腺」等々の思考を12個セットできて、それによるボーナスとデメリットが設定されています。
ああ、別の刑事タイプ…しかも最悪のやつ。最も獰猛で残酷な刑事タイプ、それが〈アート刑事〉だ。そいつにとっては何もかもが物足りない。すべてが“くそ”。周囲の作品や視覚的造形の凡庸さを描写してこきおろすために、形容詞の大部隊を駆使する。評論の筋肉を“収縮”させろ。凡才を“懲らしめる”語彙が身につくまで。さあ、やるぞ…
古臭く、わざとらしく、ありきたりで、取るに足らず、素人くさく、幼稚で、性病的陳腐さにまみれ、体制順応主義への賛歌であり、色目遣い、人類への侮辱、戦争犯罪、戦犯として裁かれるべき、断固としてくそであり、想像力に欠け、無知な再考、女々しい試み、才能なき乱交パーティ、くそ量産機、ペダンチックでだるい、死ぬほどつまらない、冷ややかな笑いが次から次へと。
《思考からのボーナス》
・-1手と眼の協調:何もかもがくそすぎて、怒りで手が震える
・〈概念化〉パッシブは気力を+1回復し、経験値+10「実質的芸術学位」
〈ハードコアの美学〉を内面化しただけでなく、おまえはそれに“貢献”した。どこまでハードコアになるつもりだ?“ローコア”な連中は“誤字”をやたらと指摘してくる。こっちは“Hardcore”、こっちは”Hard-core”、おまけにこっちは“Hardorcore”…どうなってるんだ?誤字なんかじゃない。コアのハードさはそういうものなのだ。“ハードコア”と“俺たちのハッピーなハードコア”のちがいがわからなければ、会話は成り立たない。
ああ、そうとも。ハーブ。これはハーブの話だ。〈ハードコアの美学〉との戯れは、ひとつの疑問にたどり着く。その疑問とはこういうことだ。ハードな刑事になれたら、ハーブもハードにキメていいのか?答えはイエスだ。精神向上薬も黄色いくその粉も、以前より多くキメられる。煙草とラガーもだ。おまえはハードコアを“ほんとう”に自分のものにしたのだ。
《思考からのボーナス》
・+1耐久力:ハーブをキメるのに便利
・+1意志力:同じことだ、ハード野郎「ハードコアの美学」
良すぎる。思考の組み合わせでロールプレイをしようと思ってもいちいち極端な設定すぎてはちゃめちゃな刑事に仕上がってしまうんだよな。
さらに良いところ言っていいですか?
登場人物たちと会話をしているとスキルたちが(脳内で)主人公に話しかけてくる。しかもスキル同士が会話を始めるし、果ては言い合いもするからしっちゃかめっちゃかです。その声が何も聞こえてこない会話相手は怖いだろうな……。いつも膨大な知識を流し込んでくれる”百科事典”、ハーブやアルコールの話題のときだけウキウキになる”電気化学”、公衆便所に捨てられた捜査記録簿の臭いを嗅ごうとすると「は?なんで?」ってなる”知覚”、みんな良いキャラクターすぎる。
イディオット·ドゥーム·スパイラル:さて、想像はついてると思うが、そんな量のハーブを吸っちまったらふつうの人間は健康じゃいられない、そうだろ?
耐久力:そうだな。
電気化学:ちがうな!つねにやるんだよ。
あなた:ええと…つねに?
(略)
イディオット·ドゥーム·スパイラル:だが物語はそこで終わらない。おそらく検屍解剖をしたときだと思うが、250グラムものハーブが彼の鼻孔に詰まっているのが発見された。
論理:それは…解剖学的にいって、ほぼ確実に不可能だ。
電気化学:またまたちがうなあ、オタク野郎。意志あるところに道ありだ…
あなた:俺に芸術の世界は合うかな?だって…
概念化:最近、鏡を見たか?おまえは容赦ない芸術評論家そのものだ。そのひげ、その服!だらしないだけでなく、予言者のようでもある。建築批評にも挑戦してみてはどうだ!
あなた:ちょっと待て、建築も芸術なのか?
概念化:もちろんちがう、あれは一種の自閉症だよ。箱を描いたりなんかして。定規と六分儀だかなんだかを使ったマスターベーション。上品ぶった建築協会のやつらを貶め、批判しろ。その一方で、“純粋な”芸術の美徳を称賛するのだ。
あなた:待て、音楽はどうだ?芸術か?
さらには吊るされた死体、割られたガラス窓とも会話ができる。脳内で会話ができるんだから物体(?)とも会話ができるのは道理なんだよな。本当にそうか?
ご覧の通りとにかく膨大な量のテキストが設定されていて、そのどれもこれもおもしろいのが本作です。深夜に無限に読んでしまう。あとこれは感覚の話なんですが、本作の英語ボイスがかなり聞き取りやすいというか、知らない単語はたくさんあるんだけど割合ゆっくりと、そして良い声で話してくれるのでうれしい。
こういうおもしろフレーバーテキストを味わうつもりでやっていたプレイが、気づけば捜査の進行と人間模様の描写が織り込まれたストーリーに普通にのめり込んでいるところがある。
遊星歯車機関 さんの記事に触れられているとおりシステム(スキル)によって主人公の人格を演じさせてくれつつそれがプレイヤーのコントロールを逸脱していくのがその通り面白くて、さらに最終盤にはそれらスキル(内部人格)も場に飲まれたアドバイスしかしてくれなくなるのでロールプレイ感が逆に一段高まるのもうまかった。
ロールプレイ的に選択をしてきた会話の積み重ねや、脱線し続けた捜査の成果(パンクキッズたちとディスコをつくったり、未確認生物を探したりした)が、そのまま最後の展開に組み込まれてくのってやっぱり気持ち良すぎる。最終盤にインスリンデ・ナナフシの話題が再登場したときって全プレイヤーがうれしすぎて笑顔になってたでしょ。
一方で会話の選択肢にダイス(成否)判定のあるものが設置されて、しかもその成功率が高いとなるとついその選択肢を選んでしまうというプレイヤーのサガを巧みに利用するような、明らかにその選択肢はコミュニケーションミスだってわかっているものが最も大事そうな別れの場面にセットしてあったのは邪悪すぎる。この頃になると主人公のスキル(内部人格)たちも場に飲まれたアドバイスしかしてくれないし、ロールプレイ感が自ずと一段高まってくるんだよな。序盤は選択肢を全部埋めるようなプレイをしていましたが、ここに至って、わたしはハリアー・デュボワ、またの名をテキーラ・サンセット捜査官のロールを完全にこなしていた実感がある。ストーリーとしてもシステムとしても完全にハマってました。おもしろかったです。
「彼は1日に20回は“ディスコ”と言ってました」
「奇妙に思えます。とくに政治的見解については。デュボア警部補は…ご存じかと思いますが、堅苦しい倫理主義者そのものです。つい先日、ラ·レスポンサビリテ(責任)を取るために、〈連合〉軍艦と連絡を試みました。その点は称賛に値します。しかし同時に…行動は妙なんです」
「どのようにして彼がそのふたつの観点を調和させているのか、私にはわかりません…ですが、どちらの意見も主張していました」 キム・キツラギによるプレイヤー評

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