(石川博品)四人制姉妹百合物帳

とても良かった……。女子高に通う、通っていた4人(3年生2人、2年生、1年生)のサロン活動を通じた学園生活を描いた作品です。序盤から下ネタが登場するのでちょっと面食らうんですが、何というかそれが力技で面白がらせるだけのネタじゃなくて、この学園生活の、この4人の大切な一部であることが伝わってくるようなものになっていて読み進めるうちにどんどんはまっていきます。「湯煙の中の風景」があまりにも良すぎる。温泉に行きたいぜ。

学年の違う4人となれば時間の経過をどのように描かれるかが肝になるところですが、この作品の組み立ては「4人のエピソードを語るのは(語られる中では3年生の)杜理子の、その妹である(語られる場では)今年同学園に入学した久美子で、その聞き手が僕(タツヤ)」っていうねじれがあります。語られる時点で杜理子はすでに高校を卒業して、その妹の久美子が同サロンに入り、そこで先輩から聞いた話を僕に語っているんですね。

4人のエピソードが卒業に向かうに連れて、この構造が徐々に立ち上がってくるのがかなり気持ち良い。四人制姉妹から一人へ、別れと同時に一切描かれはしないけど間違いなく今があることが明示されているんだよな。そして何より、この語られている四人のエピソードは1年間分である一方で、僕が久美子からそのエピソードを聞くやりとりの実際の期間は高校一年生の半年間というところです。

「百合種」の一年が僕の半年を追い越してしまった。杜理子さんと紗智さんは学園を去り、僕は高一の夏にいた。ほかのどこにも行けなかった。(……)二年半後の卒業より、長すぎていつ終わるとも知れない夏休みのほうが僕にとっては切実な問題だった。『四人制姉妹百合物帳』308頁

4人の高校生活が終わったところでも、(本編ではほとんど触れられることのない)僕にとっての高校生活は始まったばかりの夏休み。まだ先は長くて、僕には僕なりの悩みがある。これは姉妹の話を読んでいた読者からすると本当に些細なことなんですが、それでも4人の高校生活を読んだあとだとやっぱり僕のこの些細な悩みも重要で、かつやっぱりそれは些細なことなんだよなっていう気持ちになるのがめちゃくちゃ良い。わたしはある悩みや不安が、実は本当はその世界、その視野の中での悩みに過ぎなくて、それが過ぎ去る瞬間の軽やかさというか、そういう描かれ方がめちゃくちゃ好きなんですよね。本作の著者である石川博品作品の一つ、『ヴァンパイア・サマータイム』もそういうところが好き。

2023年3月21日

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