柳川

『柳川』をみました。とても良かった……。

中年になり自分が不治の病であることを知ったドンは、長年疎遠になっていた兄・チュンを日本・柳川への旅に誘う。
柳川は北京語で「リウチュアン」と読み、2人が青春時代に愛した女性「柳川(リウ・チュアン)」と同じだった。
20年ほど前、 チュンの恋人だったチュアンは、ある日突然、 姿を消してしまったが、今は柳川で暮らしているという。
誰にも理由を告げずに消えた彼女の存在は、兄弟の中で解けない謎になっていた。ドンとチュンは、 柳川でついにチュアンと再会するが…。

公式サイト

久しぶりに再開した中年の兄弟、兄は結婚して家庭に疲れており、弟は両親の残した家でぼやぼやしている。そんな二人が飲み屋で「兄さんは親父に似てきたね」「お前は母さんに似てる」「やめてくれよ、夫婦じゃないか」って言いながらちょっと打ち解ける冒頭のシーンがだいぶ好きです。

そのシーンでも触れられる日本のヴェニス(?)こと福岡県柳川市が舞台になります。ヴェニスだけどあそこはゴーストタウンだよと飲み屋のおじさんが言っていた通り、この映画の背景にはとにかく人が入ってこない。すごく静謐な画面に音でつくってあって、(わたしは行ったことのない)柳川の景色がどこか広い意味でアジア的で、一方で背景に入ってくる看板やちらし、文化から日本の地方であることも伝わってくる不思議な雰囲気になっています。音に関しては劇中の音楽がすべて作劇で表現されている(演奏されている)ものばかりで、鐘の音なんかにも意識的な感じがあってかなり引き込まれます。

作品の中では中国語、英語、日本語が使われていて、登場人物がみんなであつまるシーンであっても全員での会話が成り立つことはないんですが、それでも何となく伝わる、ということをこの映画では繰り返しみせていた気がします。これは兄弟がつかう中国語も同じ北京育ちなのに訛りが違うことにも作品内での意味が出てきています。ただこの訛りについては字幕で読んでいてもどうにも意味というかニュアンスが伝わってこないところはあって、それでもこれをやったのが普段は韓国で映画を撮っている監督の、中国本国作品というところなのかもしれないです。

直接的な関係は不明ですが、パンフレットを読んでいると本作は中国生まれの朝鮮族の監督、チャン・リュル監督が普段は韓国で撮影していた映画をついに本国でという文脈と、中国語主体の映画を中国の俳優、スタッフは他の監督作品と同じ韓国のメンバー、それを日本の柳川で撮影するということでかなり大変だったらしいエピソードも柳川フィルムコミッション代表の方の記事に書かれています。中国、韓国、台湾、日本の50人規模の集団で、そのすべての言葉を扱える人はおらず、中国語と日本語は2名、中国語と韓国語を扱えるのは監督だけ、といった状況らしいです。

こういう言語の状況を、静かできれいな柳川の風景と、登場人物の頭の中にだけある20年前の北京(「北京の後海に似ている」という会話があります)がオーバーラップして描かれるのはどうにも個人というか、孤独という意味ではないんですが、その個々の中にある記憶や思いみたいなものを上手く画面で見せてくれている気がします。それでも何となく伝わる、というのが大事なんだよな。

ちなみに中国語題は『漫长的告白』で、これもすごく良いタイトルだとおもうし、むしろ柳川に”YANAGAWA”の読みをあてているポスターは”柳川”の日本語読みと中国語読みに対してちょっとどうなんだろうって思ってたところもあったんですが、パンフレットによると中国語のタイトルは現地での公開に際して広告的理由からつけざるを得なかったものらしいです。そうなんだ。確かに監督の過去作は地名『福岡』とかも多いからその命名規則から外れてしまうところはある。

ふと思ったんですが、映画の主人公兄弟が中国の北京生まれだとすると一人っ子政策はどう関わっているんだろうな。ちょっと調べたけどルールが細かそうで諦めてしまった。これも何か意図があるような気がします。

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