ハンガリーの荒涼とした田舎町。天文学が趣味のヤーノシュは老音楽家エステルの身の回りを世話している。エステルはヴェルクマイスター音律を批判しているようだ。
彼らの日常に、不穏な“石”が投げ込まれる。広場に忽然と現れた見世物の“クジラ”と、“プリンス”と名乗る扇動者の声。その声に煽られるように広場に群がる住人達。彼らの不満は沸点に達し、破壊とヴァイオレンスへと向かい始める。
全編、わずか37カットという驚異的な長回しで語られる、漆黒の黙示録。扇動者の声によって人々が対立していく様は、四半世紀前の製作ながら、見事なまでに現在を予兆している。公式サイト
冒頭のバーで天体の説明をするところが良すぎる。同じ監督による『サタン・タンゴ』同様に長尺のシーンが続くんですが、この無発声のまま画面が少しずつ動いていくのをみるとウオオとなってしまう。正確にはこの長さだとめちゃくちゃ判断を待機させられている状態になるので、その間ひたすら画面の良さを投げつけられている感覚かもしれない。音声はあとで入れているのか、最初すこしだけ声と画面のずれが気になったけど、むしろこのアフレコの音の種類をかなり抑制していることでより尺の長い画面の良さが際立っている気もする。パンフレットの中でアフレコについて、「なぜなら、撮影現場で私が怒鳴り散らしていたから、同録の音は使えなかった」と監督は言っているのでまあそういうこともあるのか。ヤーノシュをはじめとする登場人物の衣装もまたかっこいいんだよな。
病院のシーンもめちゃくちゃ良かった。悲鳴や怒声はなく、ただ暴力の画面、暴力の音が聞こえてくる。あの長いカットをみているときに感じるこの映画の美しさや違和感、ノイズがとてもよい。天文学が好きで、街にきたサーカスの鯨に心を奪われる世間離れしたヤーノシュの目がみる暴動だった。その見開かれた瞳が画面に映り続ける時間がある。同様に映画の最後に暴動の中心にあった広場の、破壊されたトレーラーから落ちこぼれた巨大な鯨の瞳。とても良かったです。
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