「どうしようどうしよう夏が終わってしまう」軽い気持ちの自殺未遂がばれ、入院させられた「あたし」は、退屈な精神病院からの脱走を決意。名古屋出身の「なごやん」を誘い出し、彼のぼろぼろの車での逃亡が始まった。道中、幻聴に悩まされ、なごやんと衝突しながらも、車は福岡から、阿蘇、さらに南へ疾走する。 巻末あらすじ
今年の夏によみました。その夏といえばわたしの気が滅入っていた時期で、診断書も出ていて、もう労を休もうとしていた瀬戸際の季節です。もともとはtheピーズの曲が登場する小説ということで随分前に買っていたところ、昨年末に同じく九州を舞台にした映画「EURIKA」でめちゃくちゃやられたことを受けたことを思い出して、似たところのあるように感じたこの本を棚から取った。
”何もかもゆるやかだ。平和だ”という開放感のある大観峰の景色。その前日にはなごやんと喧嘩をして「好かん。いっちょん好かん。あんた死んでよか」とまで言っているあたし。阿蘇の火口に身投げを考えたことのあるというなごやんの話。ばたばたとして、次はあたしの番。『亜麻布二十エレは上衣一着に値する。』。繰り返し頭に響く幻聴のリフレインが思考をかきみだす。
あたしは消耗していた。残っている力も、自分を消すことでぴったりとなくなりそうやった。そのちょっとだけの力で逃げ続けるのはつらい。でも、帰ったら今までに犯した罪の償いと、それから周りの連中の質問と、医者からの叱責を受けなければならない。何もわかっていない人たちと、嫌なことばかりの現実に耐えられる力はもうどこにもないような気がした。 『逃亡くそたわけ』88,89頁
二人の九州ロードムービーはこうやってお互いの踏み込めないラインを少しずつ混ぜ合いながら、阿蘇を越えて南へすすむ。
わたしは大学の頃に2年間連続で九州を回るゼミ旅行に連れられていったことがあって、その時の景色を頭に思い出していた。延々と車で移動して大観峰をみたり、人のこない山道だけ運転(片手くらいしか運転したことのないペーパーですがやった)したりした。と同時に、去年精神が限界でお休みをしていたときに、今作と同じようにtheピーズが劇中(エンディングテーマ)に使われた映画をみたりしたことも思い出していたし、読んでいるいま、まさにつらい現状のことを考えていた。
初読した夏の間はそういう状態だったのででひとつひとつを重く読んでいた気がする。少し時間をあけて年の瀬の気持ちである今、改めて読み返すとすごくさらっと読みやすくなっていて、それが不思議な感じがある。
終盤、別の土地に来て、ホテルに入って気が改まる時間と、街を行く人をみてふとしたときに同僚が働いていたり、同級生が学校に通っていることを連想して、日々の連続にウワーとなる時間とがある。
帰ろう、って決めてからになってなごやんが明かす「俺さ、ほんとは今日あたり退院の予定だったんだ」っていう告白があるんですが、もうお互い帰るつもりの雰囲気で、そもそも脱走自体は無かったことにならない時点で、それでも退院の予定日が登場するのはここからの日常がこれまでの日常にあっけなく接続されることなんだよな。
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