『山尾悠子偏愛アンソロジー 構造と美文』を読み終わった。山尾悠子と言えば『飛ぶ孔雀』の冒頭が本当にすごく好きで、今回の本が出たときもそれを思い出して買いました。
シブレ山の石切り場で事故があって、火は燃え難くなった。
大人たちがそう言うのを聞いて少女のトエはそうかそうかと思っただけだったが、火は確かに燃え難くなっていた。まったく燃えないという訳ではないのだが、とにかくしんねりと燃え難い。すでに春で、暖房の火を使う場面はなかった。 『飛ぶ孔雀』冒頭
良すぎる。
ボルヘスの「バベルの図書館」から始まるこのアンソロジーは、表題のとおり人工的な構造が美しい短編、あるいは彫琢の極まった文章が並んでいます。特に好みだったのは引用のこの文章です。
嫉妬ぶかい神々が或る月蝕の夕ぐれ、共犯の星の一隅の、円錐型の影に身をひそめてカーリを待ち伏せた。彼女は雷に首を撃ち落とされた。血の代りにおびただしい光が首の切り口からほとばしった。二つに輪切りにされた屍は、地霊たちの手で深淵に投げ込まれ、神々しい光を認めぬか拒むかした者たちが泣きながら這いまわっている地獄の奈落にまでころがり落ちて行った。冷い風が吹き、天から落ちはじめた光を濃縮した。 「斬首されたカーリ女神」(マルグリット・ユルスナール/多田智満子 訳)221頁
すごい。情景と同時に神性の輝きがある。この系統でよりポップに書かれているものが市川春子による『ポラポレプリリン神話』なんだよなと思った(毎月ちくまから届いてうれしいね)。
そのほか「時間の庭」(J・G・バラード)、「血まみれマリー」(金井恵美子)、「占拠された屋敷」(フリオ・コルタサル)、「蘭房」(澁澤龍彦)、「室内」(山尾悠子)が特によかった。コルタサルのこの短編は絶対に読んでいるはずなんですが、今回このアンソロジーで再読したときはじめてしっくりきた気がします。編者あとがきも、収録作を編者の読書経験も交えて紹介されていておもしろいです。
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