『SELF AND OTHERS』をみた。とてもよかった……。
1983年、3冊の作品集を残しわずか36歳で夭逝した写真家、牛腸茂雄。彼の写真のまなざしは没後しだいに味わいを増し、人々の心をとらえていった。特別な技巧をこらしているわけではない。だが、なぜか記憶に深く食いこみ、魂を揺さぶるような力を備えている牛腸茂雄の写真。遺品のひとつにカセットテープがあり。この映画の中でだれにともなく語りかける牛腸重雄の声が録音されている。「もしもし、きこえますか。もしもし、きこえますか……」孤独な命が全世界へ向けて声を発しているような生々しさが胸を打つ。『SELF AND OTHERS』は、ドキュメンタリー映画の新たな地平を切り拓いた佐藤真監督が、牛腸ゆかりの地に立ち、残された草稿や手紙と写真、肉声をコラージュし、写真家の評伝でも作家論でもない新しい映像のイメージを提示する衝撃の映画である。image F
冒頭に一本の樹が映される。画面はその樹を映し続けて、みているわたしは樹やその葉や周りの草やうしろの竹藪が風に揺れるところをみる。この映画は画面と、牛腸茂雄の音声あるいは牛腸茂雄の手紙を朗読する西島秀俊の声と、それに画面の風景音が、それぞれ別の次元から映画をみる側に投げかけられる感じがある。カットの途中でばつんと切れる音楽や無音のまま続くカット等でその意図的な違和感、音について意識してしまうんですが、でも今日記をかくために映画を思いだすと、例えば川にかかる橋を映した画面で、牛腸茂雄の姉に宛てた手紙の朗読を聴いている記憶とその映像が完全に重なっているだよな。この画面に映らない何かを、音や、あるいは幾度も挿入される、牛腸茂雄の撮った写真をカメラで撮った画面なんかが、画面越しにもう一枚のフィルターとして不在の存在のような存在感を出しているんだよな。すごい映画だった。
コメントを残す