ベトナム、集合住宅みんなが借金まみれになりながら”闇くじ”にのめりこんでいる街で、当選番号の予想屋をしているロムの話。いや、ロムの話と書いたんですけど、この映画にでてくるどの人物も(語られない)過去があってとにかく目先の暮らし、借金、今日のくじは当選したのか、人生は変わるのか、明日はどうかを視野狭窄的に描いていて、しかもこのくじの当選番号の予想は完全に迷信的なもの(生活苦で死んだ他の住人さえも番号予想のネタにしたりする)、そもそもくじの胴元や仕組みも明らかになっていない、ただ毎日16時に当選が発表される。というように(視聴者目線では)住民にとっても必要な街全体の情報量が圧倒的に欠けている。この情報量の少なさが登場人物の突発的な機微をくっきりさせていて、彼らの現在というか街の姿が迫ってくるんだよな。
この街で住民を焚き付けてお金を受け取り、運営側(の末端)に届けることで手間賃を得るべく走りまわっているのがロムと同業者たちで、とにかく揺れるし変な角度になる臨場感のある映像の疾走感、そして住民たちの苦しい暮らしからくる(悪い意味での)前のめりな勢い、少なすぎる情報量からくる切迫感、これらが90分を通じて延々と与えられる映画になっています。いやーめちゃくちゃ良かった。
そして主人公のロムの演技が迫真なんですが、この方は監督の演技経験のない実弟とのことでマジ?となりました。あと、映画冒頭で上映作は当局の検閲が入ったことによる修正版であることが示されるんですが、パンフレットにはシナリオ採録で検閲後の削除・変更・追加シーンが記載されているのでおすすめです。
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