『改訂新版 楽天の日々』(古井由吉)を読み終わった。00年代から10年代頃の文章を集めたものです。既読のものもいくつかあるんですが、似たような話題も多いので自分の記憶が正確かはわからない。日記や同時期の文章が並んでいることもあり、この話題があちらにつながったのかなと思われるようなものもいくつかある。
それにしてもというか、当然といえば当然に老いの話題が多い。古井由吉が老いを意識したのは31歳の頃、歯科で指摘されたことがきっかけであることをなにかの年表で読んだことがある。そのときは年表に書かれたその情報を謎に思いましたが、確かに同氏の文章では老いについての話題がよくのぼるので親切ではあるのかもしれない(そうか?)。自分の中に老いがあるということ、自分の中に他者であり、すでにどこか懐かしい感覚であり、見知らぬものがあるということ。
ますかがみ そこなる影に むかひ居て
見るときにこそ 知らぬおきなに 逢ふここちすれ (『拾遺和歌集』)『改訂新版 楽天の日々』370頁
この旋頭歌に触れて、「自分の老いの姿を見る心はたいてこんなものだろう。」と書いている。老人が鏡に向かっていると取る。あるいは、壮年期のものが鏡の中に自分の老いを見出すと取る。わたしは自分の日々の生活があっという間で週末にやっと息継ぎをしているような状態で、なかなか我が身を顧みることもない暮らしをしていると、こういう瞬間がどこでくるのかわからない。それよりも自分から目をそらしているところも多分にありそう。
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