とてもおもしろかったです。インドネシアにおいて2019年に上程された「音楽実践法案」。これが音楽実践における表現の自由を規制しているものとして多くの批判を受け、廃案されたことについて、インドネシアにおける音楽シーンと民主化のうねりを整理してくれるよい本です。
スハルト時代を経た民主化後、権力批判メッセージが伝えられるようになることで広まるアンダーグラウンド音楽実践と、一方でライブ会場の収容キャパの問題から起こった事故を経た軍用地のライブ会場利用、スポンサーとしての大手タバコ会社との連携。さらに時代を経て、各地でのインディーシーンの勃興と、それに伴う過去の音楽の再評価による時代間の継承、音楽ジャンルの越境、シーンとしての連帯。いわゆる「多様性の中の統一」。これが地方を超えてナショナルな音楽シーンへと展開していく過程が描かれています。
インディペンデントであることと、一方で著作権法の整備(インドネシアは海賊盤のメッカ)や音楽活動に対する支援を行政側に求めざるを得ないために、能動的な主体として音楽実践者がはたらきかけをしていくことのジレンマ。このあたりの内容が特におもしろかった。行政側としても多民族国家として「多様性の中の統一」という理念をナショナリズム的に利用することで、あるいは音楽文化の保護、あるいは創造産業としての経済的発展というそれぞれの目的で生まれた音楽実践者と行政の両輪でのやりとりが起こる。あくまで民主的な過程を経て進んでいった結果が冒頭の「音楽実践法案」につながってしまうという内容です。
インディー文化のインディペンデント性って本当に主体に依って違うからこそ議論が難しいと思っていて、この本ではそのあたりを多分わたしが思い描いていたよりも、よりマクロなうねりの中に置いている感じはあります(大規模フェスをやっていく界隈がインディーを代表しているというかそういう話です)。
こういう文脈で引っ張ってくるのもどうかと思うものの日記なので書くんですけど、たとえば『Do It Yourself!! どぅー・いっと・ゆあせるふ』のなかで大人の手を借りたりする場面のDIY性(この本ではDIYという単語は数回しか出てこないです)ってなにっていうところと似ていて、結局主体ごとのものをシーン外の第三者がどう見るかというのはすごく、難しい。
そういえばこのあたりは昨年みた展示『PUNK! 日常生活の革命 展』のなかで上映されていた「Music by Vice《Punk Rock vs Sharia Law -Music World – Episode 5》」を思い出しました。この映像は同じくインドネシアのアチェ州におけるイスラム法に関する内容で、もっとミクロな、一人ひとりの生活に着目したものです。
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