(古井由吉)女たちの家

『女たちの家』(古井由吉)を読み終わりました。『櫛の火』につづいて手元にあった古井由吉の長編として読みました。面白かったです。両親と兄二人に妹の家族。両親と姉妹に弟の家族。それぞれの妹と弟を主軸に描かれる人間関係が『女たちの家』というタイトルに妙にしっくりきてしまう。兄の失踪と同棲相手にまつわる関係、姉妹それぞれの男性関係、家庭間の妹と弟の交際関係、そしてもちろんそれぞれの家族における関係が、奇妙な釣り合いの中に、いや崩れつつある中で、どうかして戦後の社会をひと世代分巡っていく。互いが互いに「気が狂っている」「錯乱している」と思いながらも結ばれていく関係は歪で、それでいてそれでしか成り立たないような幻想を生んでいく。

短編や連作短編ばかりを読んでいたわたしだとこうやって長編でたくさん人物を並行して掘り下げて構成していく古井作品は少し新鮮で、こういうのもあるんだとなりました。でもやっぱりラスト、父母が亡くなって姉妹と長男だけになった家族のなかで、長男が家長の立場になったときの述懐は古井作品らしさというか、ここまでひたすら描いてきたすべての歪な関係と向き合う、というと言い過ぎですが直面するというか、引き受けるというか、作品全体(社会)と接する場面としてクライマックスだったような気がします。

2023年2月27日

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