オールド・ジョイ

めちゃくちゃ良かった。今年みたなかでもかなり好き。

寂れた郊外に暮らすマークのもとに、街に帰ってきた旧友カートが声をかけて始まる映画です。二人がでかける目的地の温泉には「別世界のような平穏がある、ものを考えるには最適な場所だ」というカートのすすめで、出産を控えた妻とマークの互いの気遣い、そしてすれ違うようなやりとりを経て二人(と犬のルーシー)は温泉地へキャンプに向かう。車内で田舎町での思い出を語り、馴染みのレコード屋がスムージー屋に変わったことを語り、車はくすんだ街を抜けて山道へ。

ここで流れるヨ・ラ・テンゴの曲がめちゃくちゃ良かった。この映画の劇伴は全部このバンドなんですよね。

山に入り、ヒッピー暮らしでいかに最高な体験をしているかを話すカートと、昔の思い出を語るマーク。この二人の疎外感を描いた旅なんですが、その描き方がすごく良かった。渓谷の川沿いの一本道を走る風景車内から窓越しに映した映像が流れる。この一本道を描きながら、夕方には道に迷う。

ひとつの尺も長めで常に目線が登場人物に寄り添っていて離れない。「山に登ると視点が変わる」というセリフをはさみながらも、作中の実際の視点は常に普段の人の目線の高さで先を見通すでもなく、盲目的でもなく、ただ目の前を映しているような映像なんですよね。夜になり、焚き火を囲んで「きみとの間に壁ができていることが本当につらい」とうちあけるカートと、あいまいに流すマークの距離感。道に迷って離れて、立ち止まって考える映画なんだよな。

秘湯のような山の中の温泉について二人で湯船に浸かるシーンでは二人が湯船に浸かり沈黙するなかで(この映画は沈黙のシーンもとても多い)、ふいに挿入される小話もまた良かった。「悲しみは使い古された喜びなのよ」っていう夢のなかで聞いた言葉が二人に響いたのかどうか、そのまま旅は帰路へ。

先日みた『リバー・オブ・グラス』も良かったんですが、本作がかなりぐっときてしまったので特集の残り2作品(『ウェンディ&ルーシー』『みーくすカットオフ』)も観に行きたいです。

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