(岡田睦)岡田睦作品集

収録作の「一月十日」が一番頭に残っています。日記を書く、日記の種になるメモを書く、メモのメモを書く、思ったことを無意識にすべて口に出すようになる、言葉が出なくなる、何も書けなくなる。

「カイダンヲオリテ」とつぶやいて、階段を降りてきて、電気炬燵にあたって、一服しながら、
「おかしいな、とつぶやくことを、おかしいなとつぶやくことを、つぶやく」
カレンダーに目をやった。きょうがいく日だかわからない。TVに載せてある置時計をみた。何時だろう。時計が読めない。
「おかし」とつぶやきかけて、やめた。ガラス戸越しに、向かいの家の灯りが点いた。ああ、夕方か。こっちも蛍光灯を点けた。
(「一月十日」)

このあたりから一気に切り詰められた呼吸が、一方でいやこの状態ってもしかして普段へらへらやってる生活とほとんど同じじゃないかって思えてきて、一昨日深夜に読んでて頭がくらくらしてきました。これは似ていて怖いという話をしたいわけでは全然なくて、こういう自分では一切意識しない(できない)日常のなかにある一幕がたしかにあるはずなんだよな。

2022年2月6日

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