(古井由吉)椋鳥

いまは『椋鳥』を読んでいます。ここまで読んだ中だと収録作のうち「咳花」がよかった。「雪の下の蟹」と同じく金沢を舞台した、おそらく赴任時代を題材にした作品です。金沢作品って雪の下の蟹(良い)以外にもあったんだって思いながら読んでいたんですがこれもまた良かった。氏の作品でよく取り上げられるものではあるんですが舞台が舞台だけに北陸の天気や町並みから沸き立つイメージが関東の作品よりもはっきりしている感じがある。

(2024.10.12追記)

『椋鳥』(古井由吉)を読み終わった。先日日記に書いた「咳花」のほか、「あなおもしろ」が特に良かったです。精神病院に入院する旧友を送り届ける一日の話で、古井由吉作品の題材の一つ、世間(あるいは時間)と個人の間が薄皮を隔ててずれる感覚が、入院する旧友と同じく友人と、主人公の3人のやりとりから描かれています。良い。というかこれ絶対にどれかの本で読んでいる気がするんですが思い出せない……。あとは同じく収録作の「あなたのし」は、このあとの名作「眉雨」につながるような、人称が消えて、誰が主語で、誰と何のやりとりをしていくのかが溶け出して判然としないのに妙にリズムの良い、しかも精緻な描写が続いていく、とにかくついていくのが大変な作品だった。

2024年10月5日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA