冒頭に筆者が書いている通り、エッセイ調で各時代の詩を中心に文化作品を集めてきて、時代ごとの地衣類の取り扱いやそのイメージをならべていくような本です。なので読み方も整理して地衣類の知識を頭に入れるんじゃなくて、もっとその地衣類を研究していた人、詩に取り上げた人たちの話を取り込んでいったほうが良いみたい。地衣類に対する視線は時代や文化だけじゃなくてその個人の、エピソードや性格やその他諸々にも繋がっていて、どこか陰気で、それでも粘り強くあることをこの本では何度も触れています。それって別に地衣類じゃなくても良くない?という気もするが、日常の、街の、小説や詩のなかのふとしたところで目にする地衣類だから良いという気持ちはこの本を読み終えてから散歩をしながら地衣や苔をみるようになるとわかる気もする。
起きてみると、実存の感覚が糸のように細くなっている。そんな朝は軽くうなずくだけで、心を引き裂かれることもなく、虚無の中に降りていけると思えるものだ。
だが実際は逆に、粘り強く、実存は続いているのである。私たちは死を迎える前に、いったい何度、当然のこととして死への道をたどるのだろうか。今日の私は砂州の生を生きている。残忍なまでに乾いた不毛の地に水を一滴注いでほしい。魂が詩の息吹に呼びかける。(カミーロ・スバルバロ、1928)
(略)地衣類がある風景は実存の危機と、近代の条件を語り、悲歌の力学に寄り添うためにある。喪失を受け入れ、それから叫んでーー嗟嘆の「ああ[helas]」に含まれる「おい[he]」と「おお[oh]」が結びついた呼びかけ「おい、そこ[he, oh]」ーー何かが跳ね返り、息吹が通うことに期待するのだ。 『地衣類、ミニマルな抵抗』171頁
(11/29追記)

地衣類の本を読んでいて、あのあたりの樹についていた気がする……っていう場所を確認してきました。たぶんロウソクゴケ、だと思います。本には図鑑的な知識が載っていないので、葉や茎がみえないから苔ではなさそう、あとは色で……くらいのあたりのつけかたで検索した情報です。それでもロウソクゴケはそこらに生えているのはそうみたい。ヨーロッパではロウソクの着色に使われていたのでこの名前が付いているとか。なるほどね。
(12/9追記)
『地衣類、ミニマルな抵抗』(ヴァンサン・ゾンカ (原著), 大村嘉人 (解説), エマヌエーレ・コッチャ (解説), 宮林寛 (翻訳) )を読み終わった。良かったな。冒頭に筆者が書いている通り、エッセイ調で各時代の詩を中心に文化作品を集めてきて、時代ごとの地衣類の取り扱いやそのイメージをならべていくような本です。
「地衣の発話」にとって何より重要なのは自身を一つの場所につなぎとめることである。そこがミニマルな点、つまりローカルな一点であっても問題はない。自身をつなぎとめ、空気が通う余地を残しておくこと。生と書記行為に立ち向かうにあたって、旅や叙事詩は一切必要ない。(略)
こうしてエマーズのミニマルな詩はいわば「寝ずの番(ヴェイユ)」となり、(『常夜灯(ヴェイユーズ)』のような単語から感じられる落ち着き」)、声をひそめて語りかけてくる(略)
痩せ細り、控えめで、孤立した詩は敵対的な環境によく耐え、希望をつないでくれるのだ。地衣類、ミニマルな抵抗213
それでも同じく地衣類から連想される協同や連帯、そこから新自由主義的価値観への抵抗に関する部分になってくると、ちょっと色合いがちがうというか、まあね……といった感じはあり、ありました。訳者あとがきでも、原文の瑕疵や文法的に意味不明な文章等々が指摘されていますが、まあそういう読みにくい部分もあった気がする。それでも地衣類に対する視点やロマン主義前後の感覚、それにスバルバロのことをしれただけでも良い本だったと思う。
(12/15追記)
お店を出ると目が覚めた気がする。雨上がりで、少し涼しくて早朝みたいな気分になる。散歩がてらスーパーへ。身体はまだすこしだるくて、膝や股関節あたりがばらばらになりそうな気がする。ひと息休憩に近くの神社に入る。



じっとりした地面と霧っぽい空気、雨上がりの曇天は神社なんだよな、ってなりながら足元をみてました。苔がたくさん目に入る。樹の周りの地面はすこしぬかるんでいて滑りそうになる。

先日は樹に張り付くタイプでしたが、今日は岩に付くタイプの地衣をみかけました。酸で岩面を溶かして固着している。これまでだったら苔、ではないしなにかカビとか……?みたいな分類を頭の中でしていたと思うんですが、『地衣類、ミニマルな抵抗』を読んでからこれって地衣類では?みたいな見方をするようになった気がする。ただこの本に載っている図は地衣類をモチーフにした文化作品が多くてそれ自体の分類はほとんど載っていないので、これが地衣類か、そのなかのなんなのかはよくわからないです。部屋に戻ってから検索したけど不明でした。
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