(町田康)記憶の盆をどり

『記憶の盆をどり』(町田康)です。短編集でまだ2本しか読めていないんですが、そのなかの「山羊経」がとてもよかった。

一見すると主人公がそのときにみたこと、きいたこと、おもったことがだらだら流れ続いているような文章で、だから何か無秩序な描写が続くようなんですけどそれがぎりぎりのところで、話の筋でもないレベルで関連する単語の連想でリズムができているというか、こう連想ゲーム自体にリズムがあるじゃないですか、そういう話運びなんですよね。それがついに極まったシーンがここで、

思いが次々と、山を集団で駆ける村人のように、気がちがったブッポウソウの涙のように無数の銀の直線として頭の中に突き刺さり、誰が何を思っているのかわからなくなった。音が次第に高まって轟音となり、もはや元はなんだかわからないただ重低音の響き合いとなった。それがついに窮まって、耳も頭も潰れるな、と幽かに思うとき、急に音がやんで、あたりが薄くらくなった。(『記憶の盆をどり』37~38頁)

ブッポウソウという鳥がいて、それは鳴き声が仏・法・僧と聞こえるからそういう名前らしいんですけど、っていうことを今回はじめて検索で知ったんですが、そのうえでブッポウソウのなみだっていうのが直前までに描写されていた青鷺や雀の鳴き声やなぞの音楽、カラスの鳴き声、近くの牧場から届く牛の鳴き声、羊の鳴き声みたいな音だけでも沢山のものがあったのをここにぎゅっとしたときに出てくるのが”気がちがったブッポウソウの涙”っていう置き方になるのはちょっとかっこいい。これはわたしの趣味の問題ですが。

ここから後半に入った瞬間に大日如来になった亡父が登場して主人公の未来予言を始めるからすごいんだよな。一気に転調して展開はめちゃくちゃなのに、逆に前半よりも何が起きているのかはわかるようになる。対話がなされるからその話している未来予言ややり取り自体はアホみたいな内容なんですけど、わかってしまうんだよな。何かブッポウソウっていう名前を置いたのもこの展開にやや反響している気がします。それで父の予言のなかに「限界を感じたおまえは秋田へ行く」とか出てきた瞬間にかなり笑っちゃった。シンクロニシティがすぎるでしょ。わたしも昨日まで限界だったので秋田にいっていたぜ。

大日如来(父)とのやりとりが終わって次の段落は「街道沿いの安楽食堂に入った」からはじまってまた前半のような見たものをずるずる書いていく描写が続くんですが、この「安楽食堂」という単語も字面の連想でファミレスとかそういう一般的な施設のつもりで一旦読んだんですけど、なんとなく検索したら出てくるのは具体的な秋田県のお店っていうのが言葉選びが絶妙だと思います。作中の予言だと2年後に秋田へ行くはずなんだよな。じゃあこの段落替えの間に2年経ったってことなのか、ただ適当に名前をおいただけなのかわからない。ただその予言を反響した締めが最後にきて終わりです。まだ一読しただけなので全然読めてないんですがかなり好き。日記だから行儀の悪いことして良い? 町田康流の「山躁賦」(古井由吉)じゃんと思いました。すみません、好きなものに引き寄せていうやつをやりました。

ということで今日はずっとこの日記の冒頭に貼ったINU(町田康が町田町蔵名義で10代後半にやっていたバンド)を聴いてました。いや、いま書いてて確認したんですけどこれ10代でやってたんだってちょっとうおっとなりました。わたしはと言えば高校の頃に聴いて歌詞よくわからないなってなりながら、じゃあって手に取った町田康の本もわからないな……ってなってたんだよな。あとこれは本当に些末なメモですが、『私の文学史』のなかで「ライトサイダー」の歌詞について触れるなかで、大江健三郎を読んでいたときに書いた歌詞として「映画の中の愛しの大王(おおきみ)」っていうのがあったんですけど、今日聴いていてわたしはずっと「映画の中の愛しの君」って歌ってるんだと思ってたってことに気づきました。

 

 

(追記)

『記憶の盆をどり』(町田康)を読み終わりました。先日の日記に書いた「山羊経」がやっぱりいちばん好きなんですが、その他のものだと「記憶の盆をどり」「狭虫と芳信」が好みでした。後者は落語っぽい掛け合い(詳しくないので雰囲気で言っています)、思惑からどんどん外れていってしまう掛け合いの面白さが続いたその最後の最後に底が抜けてちょっと怖い、っていうやつです。いいな。全体に時代劇みたいな世界観が多くて、作品をいくつも読んでいくとこのあたりが馴染むというかお約束的なものが楽しくなるとかそういうこともあるんだろうな。盆踊りと言えば先日『愛と勇気で踊りましょ3』『愛と勇気で踊りましょ4』という地元の盆踊りや関連する風習、参加の記録なんかをまとめたZINEを買っているので読んでいきたいところです。

2022年10月21日

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