カモガワGブックスVol.5 特集:奇想とは何か?

『カモガワGブックスVol.5 特集:奇想とは何か?』を読んだ。とても良かった……。奇想SF、奇想ラテンアメリカ小説、奇想推理小説、奇想ホラー小説、それに奇想ゲーム等々のレビューが冒頭から並んでいてどれも興味をそそられる(もちろん紹介の仕方がうまいということで、これは本編を読んで実際どうかを確かめなくちゃいけない)。

その他、「つばな単行本未収録全レビュー」はこんなのってめちゃくちゃ有意義じゃん……。「奇想とはなにか?」の表紙イラストがつばな、そこに「つばな単行本未収録全レビュー」収録っていうのは、こうやってお出しされると奇想特集かくあるべしと思わせられるんですが、いやそんなすごいことあるんだって声が漏れてしまう。

事故にまきこまれて自我を桜の花びらに移送した元彼と再会する「ハナビラ・オプティミスト」(石原三日月)は、突き抜けた楽観的な思考はそれ自体が奇想的というか、むしろ奇想自体、規範から逸脱する事自体にどこか楽観的なものがあるのかって思わせるくらい気持ちの良いお話だった。

自分の名前である「クルブシ」が季語になってしまった男の話「くるぶし考」(レターパックで現金送れ/は詐欺です)。設定が面白すぎる。「季語は何をもって決められるのか」という、突きつけられると実際にはよくわからない部分の円周を逍遥するように描かれるこの世界は、その曖昧さも含めて現実のこの世界と何が違うんだ?となる。落ちがかっこいい。やっぱりクルブシは季語ではないよな、と思いながら、そういえば昨年町田康が歌集『くるぶし』を出していたことをぼんやり思い出した。

佐渡に流刑となった世阿弥から猿楽を伝承された朱鷺たちが、人類滅亡後にやってきた1体の異星人とともに能を舞って人類の霊を弔う話「幽玄の惑星」(藤井佯)がとても好きです。朱鷺たちによる舞のイメージがあまりに美しい、と言いつつこの朱鷺がわたしの想像している朱鷺なのか(なんと太鼓を叩き笛を鳴らすための指が生えている)、異星人に脚は8本、腕は6本あると書かれているがその舞はどういうものなのか、想像の範疇を逸脱しているのに、それらを含めても読んでいて美しいと思ってしまう。

2025年1月5日

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