『ippo』をみました。「ムーンライト下落合」「約束」「フランスにいる」3本の短編集です。監督は柄本佑。いずれも加藤一浩の戯曲を映画化したもので、1つ目と3つ目は狭い部屋のなかで、唯一2つ目の「約束」が屋外でとられたものです。
特に1本目の「ムーンライト下落合」は暗い月明かりの差し込む部屋で男二人がぼそぼそ喋りながら、寝たり、机の上の水を飲んだり、とにかく男が二人そこにいて、話をしながら何もしてないっていうことを細かな描写の積み重ねで描いていて演劇っぽいんですけど画面はカットごとに細い光がかなり強く決まっているしすごい。終わってからエンドロールでこの短編については”撮影 四宮秀俊” ”助監督 三宅唱” ってあったのをみてウオッとなったんですが、『きみの鳥はうたえる』の撮影が延期された期間にやってたんですね。
どの短編も演劇的な空間のやりとりをしているし間がかなり取られているんですが、一方で映画化作品ということで画面はばしっと切り替わるのでわかりやすさというか、そういうものもあります。2本目の「約束」では画面の切り返しで画面内の2人の男を一人で演じるということをやっていて、演劇だとそれも違和感ない(そういうものだと思ってしまう)んですが映画でやるとやっぱり緊張感というか、この人物の浮かび上がりが強い気がします。それに対する兄の軽やかさなんだよな。ぼんやりアニメでやるとどうなるんだろうなって思ったけど普通に一人二役のアニメあるしそれはそうか、と一人で納得するところもあったね。
2本目はお話としても、お金の無心に失敗した兄弟が平日の団地の広場で猫の数を数えたりベランダの洗濯物をみたりぼやぼやしてるうちに「みんなどうやって生きてんだろうな」ってなるんだけどそれでも軽やかで良かった。いずれの話にも共通するのは登場する人物がひたすら何もしていない時間、あるいは待つ時間を狭い空間で描いていて、しかもそれが何かおかしい(おもしろい)っていうのがあってわたしが今みるのに本当にちょうどよい映画でした。
買ってきたパンフレットを読んでいたら3本目のなかで「パリの喜び」が流れるすごくくだらない場面があるんですが、最初にそこで「ソーラン節」を流そうとしたけどイントロが長すぎて歌い出すまでにシーンが終わってしまうから諦めたってあってちょっと笑っちゃった。そういう良さのある映画でした。
これも読んでいて気づいたことですが、そういえば柄本佑氏は1本目の短編撮影頃、2017年に柄本時生と一緒に柄本明演出の演劇でゴドーを待ちながらをやっているんですよね。戯曲の加藤一浩氏のインタビューにもベケットはめちゃくちゃ大好きとあったので、そのあたりの色はすごく出ていた気がします。というか今上映時期を確認したんですが、映画『柄本家のゴドー』をみたのももう5年前ってこと?時間の流れが早すぎる……。
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