ほかげ

『ほかげ』をみた。良かった。塚本晋也監督は『野火』をまだみられていないので、『鉄男 THE BULLET MAN』以来なんだよな。

火と、その揺れに合わせて姿を変える影。
その影の中に生きる人々を見つめ、耳をすます。
女は、 半焼けになった小さな居酒屋で1人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供がいる。 闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになり…。

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冒頭の半壊した居酒屋。その狭い空間に閉じ込められた女とそこによってきた男と子ども。壁に囲まれた画面のなかで、外から近づいてくると聞こえる踏まれる瓦礫の音、玄関を開けるときにガラス越しに映る手の、その高さ、大人と子ども。少ない情報量のなかで、それぞれ3人の生活と、それぞれ3人ずつのうめき声が聞こえる。この映画で印象的なのはこの人と人の目線のやりとりと、その個人ごとのうめき声なんだよな。

後半、打って変わって建物の外を、自然の中を歩き回る男と子ども。弾丸4発が画面に映る。圧倒的に生のエネルギーにあふれているように思えた男の最後。そこで「戦争が、終わったんだ」っていう重いセリフが出てきます。

映画はここでは終わらずまた半壊した居酒屋、闇市へ。使われなかった最後の一発の銃声が聞こえる。狭い空間、広い空間、音、うめき声。画面の情報量以上に伝わる、個人ごとに抱えるものが集まった社会がみえてくる映画でした。個人に閉じこもったひとりきりのうめき声、これが何か馴染み深いものに思えてくる。

少しうつむきながらエンドロールをみていると、下からせり上がってきたスタッフ名が眼鏡の縁を越えたところで一気にぼやける、それに一気に上にずれる。久しぶりに屋外で裸眼の視界を意識した気がする。

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