収録作だと「秋立つまで」「途上」が良かった。いや、表題の「業苦」「崖の下」もすごいんですが、あまりに自意識のねじれ、自己嫌悪やそれに基づく人間関係の拗れが直接的というか暴力的で……というところがあって、あります。
自分が嫌悪するものと一方でそれに対する親愛が描かれるんですが、これが一つのこと(妻、子供、母、父、世間)に対してその両面があるというよりも、一つのことそれ自体に両方の思いを同時(ではなくてその瞬間にはどちらかを持つんですが、そのどちらになるかはそのときにしかわからないというか)に持つ様子が描かれていて、これが何度も繰り返し繰り返し過去の出来事に立ち返りながら現在と往復して描かれるものだから食傷気味になるというか、まあ読んでてつらいところがあるんだよな。いや、私小説ってそういうものだと言えばそうなのかもしれませんが……。まずあまりメンタルの調子がよくないときに読むものじゃないというところもあるかもしれないです。
「秋立つまで」「途上」でも同じように回想が主にはなっているんですが、現在のその破滅からは一歩引いた目線が保たれていて、そういう意味で読みやすかったのかもしれない。それが作品としての良さかというとそれはもしかしたら評判通り「業苦」「崖の下」の方にあるのかもしれないです、難しいぜ。
コメントを残す