『ファースト・カウ』をみました。めちゃくちゃよかったです。監督はケリー・ライカート。
12月22日は同じ劇場でもう1作、ヴィム・ヴェンダースの『PERFECT DAYS』の上映開始日でもあった。そしていずれもレイトショーがあって、ほとんど同じ時間の上映。時間の30分前について、ロビーで販売していたおにぎりを食べながら(好きなパンは売り切れていた)、いまここにいる人達はどっちの映画をみるんだろうな~って思ってた。
先に開場になった『First Cow』に3割、残ったのが7割くらい。レイトショーの静かな館内で上映が始まる。
物語の舞台は1820年代、西部開拓時代のオレゴン。
アメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルー。
共に成功を夢見る2人は自然と意気投合し、やがてある大胆な計画を思いつく。
それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である、たった一頭の牛からミルクを盗み、
ドーナツで一攫千金を狙うという、甘い甘いビジネスだった――!(公式サイト)
毛皮猟の一段に料理役として雇われたクッキーが森できのこを採集している場面から始まる。1920年のアメリカオレゴン、ゴールドラッシュ時代の少し前、西部開拓の前時代です。春先の樹に囲まれて、寒さに仮死状態になったサンショウウオを温めて蘇生するクッキー。荒くれの仲間からはぞんざいに、暴力的に扱われるクッキー。そして森で出会ったキング・ルー。
キング・ルーの言う 「歴史は始まっていない。今回は俺たちのほうが先に着いた。今回は準備をできるかもしれない。歴史を思い通りにできる」。この二人の友情が全編に渡って描かれています。
感性の違う男二人の友情、自然に囲まれた舞台といえば、同監督の傑作『Old Joy』があります。子どもが生まれる直前、家庭のことにすこし滅入っている男のもとに、放浪から帰ってきた男が山の中の温泉に誘う映画。考え方が違う二人は、いずれも社会には居場所を感じられなくなりつつあり、夜、焚き火を囲みながら話をする。温泉に浸かりながら、目を閉じて話をする。街に戻り分かれる。放浪していた男はそのまま戻る宛もなく、夜の街をうろつく……。ヨ・ラ・テンゴの劇伴がマッチした、穏やかで、どこか諦観の漂う終わり方。
それに対して今作は冒頭からクッキーとキング・ルーの結末が明示されます。この二人は並んで横たわって死ぬ。
再開した二人、キング・ルーの家に招かれて、「薪割って火をおこすからからくつろいでてよ」と言われたクッキーが所在なさげに箒を取って掃除を始めるタイプの友情。わたしはここでちょっと涙が出てきた。
クッキーが料理をしたい、クッキーやケーキをつくりたいという話をする。北アメリカ大陸に連れてこられた 「最初の牛」が地域の顔役の牧場にいる。牛をはじめて遠目に見たクッキーの、どこか恍惚とするような笑顔。
お互いに将来の話をする。ケーキをつくりたいという、荒くれものの集団の中では馬鹿にされるような(、だからこそクッキーという通り名も蔑称であり、自称であるのかもしれない)ことを聞いてキング・ルーは、さっそくミルクを盗みに行くことを提案する。歴史が始まる前の世界です。そこで二人の生活が動いている。朝、キング・ルーが鶏に餌をやっている間に完成したクッキーが窓辺に置かれていて、それを食べたキング・ルーが顔を綻ばせる場面。
一緒に暮らす中でクッキーが「枝は樹のどちら側に育つ?」「?」「外側」に対して「イッヒヒ……!」って笑うキング・ルー。こういう友情が描かれるんだよな。
そして最後、森の中をふらふらと歩いてくる二人がカメラの前で方向を変えて、大きな丸太をまたぐときにクロースアップされ、また画面を横切る長い尺のショットがあります。何気ない場面ではあるんですが、これまでの二人の生活の最後、二人で過ごす最後の何もない場面がなにか胸に響く物があった。結末は冒頭に示されています。
とても良い映画だった。冒頭のウィリアム・ブレイクの引用にあるように友情の映画であり、それは社会のなかでは周辺の人のものとして描かれており、大きな歴史が始まる前でありながら間違いなく人の生活が描かれていて、かつ時代を越えていました。
映画館を出ると外は初雪で、近くの居酒屋で忘年会を終えたグループが「雪!?!?」「雪!!!!」って写真を撮ったり盛り上がっている。楽しそうで、わたしは映画の前に届いた音源を爆音で聞きながら最高の気分で帰る。金曜の夜に最高の映画をみて、映画館を出たら初雪で、届いたばかりの全然知らない音源を爆音で聴きながら歩けるの最高すぎるんだよな。
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