(ローベルト・ムジール (著), 森田 弘 (翻訳))ぼくの遺稿集

古井由吉がもともとドイツ文学をやっていてローベルト・ムジールを訳していたことを覚えていて買ったんですが、収録作の「つぐみ」はけっこう同じ雰囲気を感じるところもあった。男が報告する半生、日常の中にふとしたときに感じる神秘、過去の体験の一つがフラッシュバックして重なる瞬間、そういったものを現在の自分と過去の体験を往復するような文章で時間を越えて練り上げていくのは見覚えがある。

とはいえ一番(作品自体とは離れて)おもしろかったのは「馬は笑えるか」で、以前も紹介した『馬の文化叢書9巻 馬と近代文学』(古井由吉編)が、これは国内の馬に関連した作品を集めたものなんですが、ここに「馬は笑ふか」(尾崎一雄)が収録されているんですよね。別作者の同名作、いやこのいずれも古井由吉の作品ではないんですが、馬の文化叢書を編むときに多少は頭をかすめた可能性もゼロではない、かもしれないと思ってしまう、いやないかもですが……。ちなみにムジールの作では「馬はウィットで笑うことはできない」、尾崎作では「だから、馬は笑ふよ」とされています。そういえばベルセルク断罪篇の馬も笑っていましたね。

2021年8月1日

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