『BABELZINE Vol. 3』(週末翻訳クラブ・バベルうお)を持ってきました。夏の間はカバンが小さいので財布等と合わせてこのサイズを持ち歩くとぱんぱんになってしまうぜ。まだ冒頭ですが、収録短編のうち「帰郷」(作 キャロリン・アイヴス・ギルマン/訳 藤川新京)がおもしろかった。滅びた(とされる)民族の遺産である芸術品と、それを管理する博物館。そこにその民族の末裔を名乗る人物がやってきて……という文化財返還問題についてのSFなんですが、この民族の文化設定や、作中に挿入される「マンフの物語歌唱」がすごくよい。お話の内容自体に大きな仕掛けがあるわけではないんですが、例えば冒頭から”原注:『〈いいえ〉の歌』より。”と掲げられて、その後に続く本編の流れと合間に挿入されていく詩が作品全体の両民族の物事の捉え方と対応関係になっているところとか、それでいてどちらも穏やかでこういうお話が好きなんだよな~となる。
(追記)
昨日の夜に寝付けずに布団のなかで読み終わった本を持ってきてしまった。『BABELZINE Vol. 3』(週末翻訳クラブ・バベルうお)を読み終わりました。収録作のうち、以前に日記に書いたもの以外だと「クリストファー・ミルズの差し戻し」(作 イザベル・J・キム/訳 白川眞)が好き。プラムの夜に恋人に殺されて地獄に落ちた兄と、その7年後に地獄から兄を呼び戻した妹の物語。まだ17歳のままの兄と、社会人として自立した妹。居心地のよい地獄に戻りたがる兄と、正義のために弁護士に証言をしてほしい妹。この二人の温度感が絶妙すぎる。
カリフォルニアの晴天のなか、現実に直面したくない兄の気持ちや、正義のためにと淡々としながらもどこか兄に固執しているような妹の2日間の距離感がとても良くて、こんなの少し前のラノベか漫画にあってもいいじゃんってにこにこしてしまいます。兄が死んで生き返って、その間に成長したしっかりものの妹が姉みたいになるけどやっぱり兄は兄だった、っていう強すぎる骨子を、兄目線の穏やかな諦観トーンでいい感じにしてるのうまいよなと思う。道満晴明のヴォイニッチホテルとかの絵柄があたまに浮かぶ。
ちなみにこの『BABELZINE Vol. 3』ですが、巻末に表紙図版出典として「Ernst Heckel “Kunstformen der Natur”(1904)」(Heackelの誤植?)があげられており、ヘッケルの『生物の驚異的な形』じゃん!となりました。ヘッケルの『生物の驚異的な形』といえば”市川春子の本棚”で紹介されていたあれですね。ちなみにヘッケルについては『ヘッケルと進化の夢 ―一元論、エコロジー、系統樹』(佐藤恵子)という本がおもしろいです。
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