『擬音 A FOLEY ARTIST』をみました。フォーリーを40年続けているフー・ディンイー氏を中心に、台湾映画史、そして映画の”音”について描いたドキュメンタリーです。わたしはまずフォーリーという仕事のことを知らないところからだったのでここに残しておくんですが、作品の映像に同期して挿入される足音、衣擦れ、食事などの音を作り出して行う効果アフレコのことです。
これが、たとえば「こうするとこの音が表現できる」みたいなびっくり紹介だけではなくて、路上で前にいる人の歩き姿を真似しながらその歩き方、なぜ重心を右に置いているのか、身体の傾き具合。こういったことをひたすら日常のなかから吸収して、映像に合わせて足音をつける。雑然としたスタジオのなかでスタジオのなかで足踏みをしたり鞄を揺すったり水をばしゃばしゃしたり、日常にありふれている音というのは映像のなかでみても自然すぎて気づかないんですが、その一つ一つがこうやって映像の中に取り込まれているんだっていうのは不思議な感覚でした。
すべての映画が吹き替えだった時代の、中国語の演技に中国語の吹き替えを入れていた声優や映画音楽製作者等々、現代の映画の音にかかわる専門職の方のインタビューまで並んでいます。もちろんフォーリーもその時代から存在して、例えば鐘を叩き割る音をどのように再現するか苦心をしたエピソードもある。もちろん時代の変化で、実際の撮影と同期して現場での録音ができるようになって役割が変わってきた部分もあるようです。わかりやすいところだとSF作品やアニメ等における創造的な音が求められることがそう。一方で、それは当然と言えば当然ですが、それでもなお、たとえば外国語の吹替版を想定する場合はセリフと動作音が分かれていないと吹き替えがつくれないので結局すべての動作にフォーリーが必要になるということもあって、今でもやっぱり仕事の大部分は日常の音の再現になってくるということです。
そういえばアニメSHIROBAKOにも音響効果の場面があったと思いますが、アニメのことを考えながらこの映画をみているとそちらでは当然にすべての音に効果音が必要なことはわかるんですが、実写の映像でその映像に効果音をあてようとおもったときにそれをライブラリでうまく対応できるのか、あるいはフォーリーがどの程度関わってくるのかはもちろん国や制作体制にも寄るとは思うんですが、興味深いところです。
というのも、この映画自体が例えば冒頭、無人のスタジオに水音や人間の動作音が聴こえてくるんですね。これは多分あとから載せた音だと思うんですが、一方でインタビューに答えている場面やフー・ディンイー氏が自分の日記を機材に向かって話している場面の衣擦れとかは実際の録音なのか、あるいは事後的に吹き込んだフォーリーなのか。そして、この映画自体がインタビューと過去の映画における音(セリフや効果音)をつなぎ合わせてるところがあって、そういうところからも単純なドキュメンタリーという以上に実写映画における音響効果とはっていう面に向かっている感じの作品でとても良かったです。
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